蘇芳色(すおういろ)
2024/01/30
蘇芳(すおう)という色は、縹色(はなだいろ)と同様に、大変古くから使われてきた色です。
蘇芳という木の芯材を煎じて染めるという技法と共に、飛鳥・白鳳時代に大陸より伝わったとされています。
お香を語る上で、欠かすことのできない鑑真和上(がんじんわじょう)の伝記にも、来日する船にたくさん積んでいたと記されています。というのは、この木には、止血や鎮痛の効果があり、クスリとしても使える、大変貴重なものだったのです。
そんな貴重な蘇芳の木で染めた色は、最高位の紫に次ぐ上位の位を表す色でした。
時代と共に手に入りやすくなったことで、希少性が薄れてきます。
おまけに、媒染液によって色が変わることもあり、貴重な色の代用品に使われるようになります。
蘇芳は、媒染液にミョウバンを使うと赤に、鉄を使うと紫になるので、それぞれ似紅(にせべに)、似紫(にせむらさき)として、江戸の庶民たちに大人気。
というのは、ぜいたく禁止令が度々発令された江戸の街では、高価な材料を使った色は、当然、絶対に使ってはいけないものでした。
けれど、太平の世になれば人々の心にも余裕ができて、おしゃれを楽しみたいという欲求が生まれます。
赤や紫といった美しい色を身にまといたい、というのも、その欲求のひとつ。
そこへ出てきたのが、アカネを原料にした『甚左紅(じんざもみ)』という赤い色。
考案した染物屋、桔梗屋甚左衛門(ききょうやじんざえもん)の名前から『甚左紅(じんざもみ)』と名付けられました。
「もみ」というのは、紅花で作った紅玉を、もみ出して染液をつくることを表します。
アカネは安価で、ぜいたく禁止令の統制に引っかからないため、広く流通することになります。
その人気ぶりは、『好色一代男』をはじめとする浮世草子の作者、井原西鶴が『日本永代蔵』に書き記したほど。
それほど渇望される色を、他に作れるものはないかな?と人々が考えるのも、当然の事。
蘇芳を使った似紅・似紫は、この時代の人々の需要に応えたものだったのです。
蘇芳は、春に咲く、ハナズオウとは別物。
ハナズオウは、花の色が、蘇芳染めで染めたものに似ていることから付けられた和名です。
こんなところにまで、人気の影響が残っているのかも?
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