思色(おもいいろ)
2024/11/28
人の思いというのは、様々です。
先の楽しみを思って、ワクワクすることもあれば、亡くなった人を偲んで、悲しみに気がふさぐことも・・・。
そんな中で、特に、この色を『思いの色』とするのには、ワケがあります。
古今集に残された小野小町の歌に
思ひつつ寝れば人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを
(思いながら寝れば、その人の夢で逢えるだろう。夢と知ったなら、覚めないでほしいものを)
という歌があるように、『思い』というのは、しばしば『恋心』を表現する言葉として使われています。
愛している、なんて言葉が出てきたのは、明治時代以降。
西洋文学の『I love you』を翻訳するために、作られた言葉だとか。
平安時代の文章の中でも、恋心を表現するには『思ひ』という言葉が使われています。
今はただ 思ひ絶えなむとばかりを 人づてならで 言ふよしもがな 藤原道雅(伊周の息子)
逢って頂けない今となっては、あなたへの想いを諦めてしまおうということだけを、人づてではなく、直接逢って伝える方法があればいいのに
思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり 道因法師
(恋に)思い悩み疲れ果て、それでも命があるのに、つらさに耐えられなく涙がこぼれ落ちるものです。
思いを、『思ひ』と表現したことから、『ひ』➡『緋』となり、思いの色は緋色のような赤い色のイメージが定着したといいます。
また、『ひ』という字は『火』を連想させます。
熱い情熱的な火は、燃えるような恋心を連想させ、思いの色は恋の色、となったのではないでしょうか?
これを踏まえて、後の文学にも、恋の色に赤のイメージを取り入れた作品が生まれました。
樋口一葉『たけくらべ』 場面の一部
美登利と信如の思いを残した紅入りの友仙は、そのいじらしい姿を、空しく格子門の外に止めたままだった。
主人公の美登利に声がかけられない自分を不甲斐なく思いながら、切れた下駄の鼻緒を直そうとする真如。
その背中に向けて、紅入りの友仙を放り投げる美登利。
近くに落ちたのを知りながらも、知らぬふりを決め込む真如。
思いを素直に、口に出したり、態度に表したりすることをお互いに躊躇したまま、その場を離れるふたり。
赤い友禅の切れ端が、互いの恋心をその場に残している、有名な場面です。
あなたにとっての『思いの色』はどんな色ですか?
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